受験基礎知識

海外からの中学受験

はじめに


「中学受験をする」ということは、小学校を卒業する12歳の段階で、子どもに適した学校を自ら選択するということです。海外においても、日本国内における少子化、中高一貫教育に対する期待に加えて、「海外生活を経験したアドバンテージを生かした中学受験をさせたい」と考える保護者は増加傾向にあり、帰国子女枠といえども、人気校における入学競争は厳しいものとなっています。

同時に、大学付属校の中学開校、私立中高一貫校の高校募集停止、公立中高一貫校の開設など、小中学生の選択肢は年々増加し、また多様化していると言えます。特に私学においては、少子化の流れの中で、「選ばれる学校」となるために改革を行なっています。

近年は、新しく帰国生入試を設置する学校も増加しており、帰国生への期待度の大きさが窺い知れます。こうした中で、子どもの教育環境を中学から選ぶことは、海外においても自然なものとなりつつあります。

海外からの中学受験を希望する場合、日本と同様、受験勉強のスタートは3、4年生からが一般的です。そうした早期からの受験準備は、帰国生入試のみならず、一般入試までをも含めた志望校選択を可能にしてくれます。


1. 受験の種類

一般的には「海外からの中学受験は難しい」と言われ続けてきました。それは、中学受験の勉強が一般的な小学校での勉強の延長線上にはない、ということが大きな理由です。特に、中学受験の算数は、学校で習う算数とはまったく別物だと思えるほどの難易度だと言えます。

しかし、学習塾などで勉強面でのしっかりとしたサポートが得られるのであれば、実は海外から受験ができた方が、制度的には圧倒的な優位性を確保できます。それは、端的に言って、受験機会が増えると言うことです。11月から1月にかけて実施される帰国生入試を受験した上で、なお、1月以降の一般入試を受験できるということは、帰国生だけに許された「特権」だと言えます。

したがって、帰国生入試の制度についてよく理解しておくことが、海外からの中学受験必勝法の第一歩だと言えます。単に「帰国生入試」と言っても、実施時期・受験科目・帰国生としての優遇措置など、学校によってさまざまなのです。

ここでは、まず受験の種類別に詳しくみていきます。

1. 帰国生入試(一般入試と別日程、別問題)

一般入試よりも2〜3カ月前に帰国生入試はスタートします。海外では11月から、日本でも12月から帰国生の受験シーズンが始まります。そうした入試は、一般入試とは異なる日程で実施される訳ですから、当然問題も一般入試とは異なります。ですから、帰国生が受験しやすい教科設定が可能であり、帰国生に特化した問題作成がなされる訳です。

受験教科からみると、《国語・算数の2科目》または、《国語・算数・英語の3科目》による入試が一般的ですが、《英語1科目》で受験できる学校もあります。国語と算数の入試問題は、一般入試に比べて難易度が下がります。その点で中学受験の勉強をしている生徒にとっては国内生より有利に受験できます。

一方で、作文や面接では、どのような海外体験をしてきたのかを尋ねられますので、自分の体験を表現するためのトレーニングも必要になってきます。また、渋谷教育学園幕張・渋谷教育学園渋谷のように非常に高い英語力を要求する場合もありますし、聖光学院のように、一般入試と比較しても難易度的には遜色のない入試を課す学校もありますので、帰国生に特化した入試だからといって、安易に考えることは禁物です。

一般入試と別日程、別問題の帰国生入試を実施する主な学校

中学校名入試科目
茗渓学園英語、面接/国語、算数、面接
立教池袋国語(作文含む)、算数、面接
学習院中等科国語(作文含む)、算数、面接
頌栄女子学院英語、面接
田園調布学園国語、算数、面接
立教女学院国語、算数、作文、面接
海城4科、面接/算数、総合、面接/算数、総合、英語、面接
大妻国語、算数、面接
共立女子国語、算数、面接
成蹊国語、算数、英語、面接
攻玉社国語、算数、面接/英語、面接
聖光学院国語、算数/英語、算数
洗足学園国語、算数、英語、面接/英語、面接
学習院女子中等科国語、算数、作文、面接
渋谷教育学園幕張英語、面接
渋谷教育学園渋谷国語、算数、作文、面接/国語、算数、英語、英語面接
立命館宇治作文、面接/国語、算数、面接/作文、面接
同志社国際(専願)英語資格、面接、書類/(併願)外国語作文、面接、書類

2. 帰国生入試(一般入試と同一日程、同一問題)

国内の一般受験生と同一の試験日に、同一の問題を受験しますが、帰国生として出願することで優遇措置が受けられます。筆記試験の合計得点に何点かの加点がある場合が多く、鷗友学園女子のように海外滞在年数に応じて優遇措置がとられる場合もありますので、国内の一般の受験生よりは有利に受験できます。

しかしながら、一般受験生と同一問題を受験するため、優遇措置があっても国内生とほぼ同等の学力が要求されると言えますので、本格的な受験準備が必要です。また、理科や社会が受験科目に課される場合がほとんどですから、当然、受験準備は2科目受験よりも量的にも増えていきます。

確かに受験準備は大変だと言えますが、国内生とほぼ同等の習熟度を目指すことで選択肢は広がっていきます。特に、このタイプの私学には男女ともに人気校が多いので、頑張ってみる価値は十分にあると言えます。

一般入試と同一日程、同一問題の帰国生入試を実施する主な学校

中学校名入試科目
市川4科/国語、算数、英語A/国語、算数、英語B
西大和学園国語、算数、英語、面接/国語、算数、面接
海陽中等教育国語、算数/国語、算数、英語
早稲田実業4科
早稲田4科
鴎友学園女子4科
豊島岡女子学園4科
巣鴨4科
横浜雙葉4科、面接/国語、算数、作文、面接
鎌倉女学院国語、算数、英語、面接
暁星4科、面接
慶應湘南藤沢中等部4科/国語、算数、外国語作文

3. 一般入試

国語・算数・理科・社会の4科目(関西では国語・算数・理科の3科目の場合もある)による入試です。東京にある学校に関して言えば、男子では開成・麻布・武蔵、女子では桜蔭・女子学院・雙葉といった御三家や、駒場東邦といった最難関校では帰国枠は設けられていません。神奈川でも、男子の栄光学園、女子のフェリス女学院も同様です。大学付属中についても、慶応普通部慶応中等部、早大学院などは帰国生に対する優遇措置はありません。

こうした実状が、海外からの中学受験を難しいと感じさせる要因になっていることは確かですが、聖光学院や豊島岡女子、慶應湘南藤沢、早稲田中、早実などの帰国生入試が射程距離に入っている受験生にとっては、決して目指すことが不可能な学校ではありません。例えば、1月の海城や聖光学院の帰国生入試で合格を勝ち取れた受験生であれば、是非、2月1日以降も開成や麻布、駒場東邦、栄光学園などの最難関高にチャレンジしてみる価値は十分にあります。

中学受験は、自分の意志で進学する中学を選ぶためにするものではないでしょうか?

それならば、国語・算数・英語だけでなく、理科や社会も勉強することで選択肢と可能性はイッキに広がっていきます。また、理科や社会を勉強した受験生の方が国語や算数も得意になるという傾向があります。「捨て教科」を作らず、まんべんなく勉強した受験生に多くのチャンスがやってくると言えます。

一般受験まで組み込んだ併願パターン(例)

男子・進学校志望

1月2月
海城(帰)聖光学院(帰)開成栄光学園筑波大附駒場

男子・大学付属志望

12月1月2月
学習院(帰)立教新座慶応普通部慶応湘南藤沢(帰)慶応中等部

女子・進学校志望

1月2月
大妻(帰)浦和明の星桜蔭豊島岡女子(帰)豊島岡女子(帰)

女子・大学付属志望

12月1月2月
立教女学院(帰)学習院女子(帰)早実(帰)慶応湘南藤沢(帰)慶応中等部

2. 志望校の選び方

海外でも日本国内でも受験準備は3・4年生から開始するのが一般的です。近年の中学受験カリキュラムでは、4・5年生の2年間で学習範囲を終了するため、遅くとも4年生からは受験に備えた勉強を開始する必要があります。

進学する学校は、「子どもに合った学校」を選ぶことが大切です。模擬試験の偏差値や有名校にこだわることなく、どんな学校が自分の子どもに向いているのかを考えましょう。大学附属校と進学校、男子校・女子校と共学校、私国立と公立中高一貫など、コンセプトをはっきりさせることが学校選びの第一歩です。

また、私学には建学の精神があり、学校独自の雰囲気が必ずあります。ご家庭の教育方針が、学校の教育理念と同じ方向性であるかどうかを見極めることが大切です。一時帰国の際には実際に学校へ足を運んで、校風や在校生・先生の雰囲気などをチェックしておきましょう。


3. 各教科で必要とされる能力について

算数

中学受験において、最も能力に差が現れる教科が算数です。私学の入試結果から受験者平均点と合格者平均点を見てみると、国語、社会、理科はあまり差がないのに対して、算数は10点以上差が開くことも稀ではありません。算数の入試問題が、学校がどんな生徒を求めているのかを知るための一番の材料となります。

和差算や旅人算、つるかめ算をはじめとする特殊算は、小学校の学習内容とはかけ離れているため、塾の授業と家庭学習の両立が不可欠です。数多くの公式や解法パターンを習得するだけでなく、高度な計算力も必要となります。さらに近年ではどんな解法パターンも当てはまらないような、試行錯誤を必要とする問題も増えています。自分で考える習慣や、最後まであきらめずにねばり強く問題に取り組む姿勢が、能力を大きく伸ばします。

小学生の思考能力開発に、中学受験の算数に勝るものはなかなかないでしょう。そのためにまず大切なことは、「算数を楽しんで勉強する」ということです。パズルを解く感覚で考えていけるようになれば、算数の世界に魅了される受験生も多いはずです。こうした能力の開発には、時間をかけてプロセスを大切にする学習が求められます。また、こうしたトレーニングは低学年の方が効果的だと言われています。そのためにも、早期からの受験準備のスタートが求められます。

国語

あらゆる教科の基礎となる教科が国語です。多くの知識と、精度の高い論理性が必要となります。覚えれば得点できる要素が少なく、時間を費やした分だけ学力が身に付くわけではありません。

ですから、低学年のときから読書習慣が身に付けておくことで、基礎的な国語力の土台を作っておくと圧倒的なアドバンテージを築くことが可能です。特に推薦図書や名作にこだわる必要はありません。子どもが興味を持った分野からスタートをすれば十分です。とにかく「本が好きな子」を育てていくことが重要だと思います。

特に海外では、子どもの成長期に、日本語に触れる機会が少なく、じわじわと母語の能力の伸長を阻害していきます。インターナショナルスクールや現地校に通う子どもたちであればなおさらです。周囲の大人がこうした現実を補完するための方策を準備する必要があります。高学年になって国語が不得意になってしまった場合、大きなマイナスを背負ってしまうことをよく認識しておく必要があります。

中学入試で主に扱われる文章は物語文、説明文、随筆文に大別されます。物語文では「友情」「家族」のように、小学生でも読みやすいテーマが多く取り上げられています。しかし、説明文では「言語論」「環境問題」「比較文化論」など現代的なトピックが取り扱われています。そういう意味では、小説だけでなく、自然科学や社会科学をテーマにした本や、新聞なども活用して幅広く活字文化に親しみ、時事問題などにも広く興味を育んでおくと有利だといえます。

理科

知識の蓄積のみならず、その知識をいかに応用できるかが問われます。生物・地学・物理・化学の4分野に大別されます。生物・地学分野においては、海外にいることによって知識が不足するので注意が必要です。物理・化学分野は高度な計算力や思考力を必要とする問題もあり、しっかりと問題演習をすることが大切です。また受験学年の年には、その年に話題になった理科的事象を確認することは必須です。日本人のノーベル賞受賞、JAXAやNASAなどの天体に関するニュースなどは、家庭でも意識して関心を持つとよいでしょう。

また、海外では子どもたちが実際に触れることができる自然環境が日本とは異なる場合があります。南半球で育った子どもたちに、日本の受験問題で問われる「星座の問題」が理解しづらいのは当然です。こうした現実を認識できていない場合、受験の理科が不得意になってしまうことは避けられません。海外で育った子どもたちが不利になってしまう分野があることを十分理解した上で、大人がサポートしていく必要があります。

社会

入試問題は大きく2つのタイプに分けられます。1つ目は知識を問う問題です。小学校の教科書を参考にして入試問題を作成している場合も多く、写真や図版は頭に入れておく必要があります。2つ目は理解力を問う問題です。事実に対して、「その結果、どのようなことが考えられるのか」「なぜそのようなことが起こったのか」など背景まで理解しているかを問われます。地理・歴史・政治の3分野を融合させた問題もあり、背景を納得した上で知識を獲得する学習が求められます。

また、理科と同様、帰国生の多くが社会を不得意な科目として挙げています。たとえ日本人学校で学んでいたとしても、日本の地理や歴史に関する情報量に関しては、日本の子どもたちよりも圧倒的に少ないという現実を見据えておく必要があります。家庭でも日本の地図帳に親しむ習慣や、学習漫画でもいいので、日本史に興味を持たせるような工夫が求められます。

英語

日本人学校生が英語で受験することはほとんどなく、主にインターナショナルスクール生や現地校生が英語で入試を受験します。英語圏からの帰国生徒と同じ条件での入試となるので、英検取得だけでなく、エッセイ・ライティングやボキャブラリー・ビルディング、グラマー対策を十分に行なうことが大切です。学校により求められる英語力は大幅に異なるので、子どもの現状の英語力と入試時期に必要な英語力をよく見極めて準備を進めましょう。

また、渋谷教育学園幕張のように、英語だけで合否を決めていく帰国生入試については、単なる英語力を問う試験だと安易に考えると失敗する恐れがあります。このような入試は、「英語で受験生の知性や思考力をみる試験」だと考えた方がいいでしょう。